読み終えた『ジャンプ』がある日は、家の前ですこしだけ待ってもらった。我が家は木造の二階建てだ。兼業農家なので、祖父が畑仕事に使うトラクターが車庫にある。俺は家に入るとランドセルを投げ捨てて、『ジャンプ』を部屋から持ってくる。ユウナに渡すと、彼女は表紙を見て「わぁ!」と顔をかがやかせる。その場で立ったまま読もうとするので、俺は彼女の背中を押し、自宅のある方角に向かって進ませる。
「歩きながら読むなよ! 事故にあっても知らないぞ!」
「うん! いつもありがとう、大地君!」
彼女は感謝していたが、俺にとってみれば、捨てる手間がはぶけたようなものだ。俺の家から彼女の家までは数百メートルほど離れている。滅多に車の通らない、のんびりとした農道を、『ジャンプ』を抱きしめてユウナが遠ざかる。
同い年のいつものメンバーで、一年の行事を楽しんだ。だれかの家で開催されるクリスマス会やプレゼント交換。年始の挨拶をかねた餅つき大会。春になると五人で自転車に乗り、桜の名所まで遠出をした。
夏の夜、全員で待ち合わせをして神社のお祭りへと向かう。浴衣を着たユウナと塔子が金魚すくいをした。がさつな塔子は、金魚をすくうための【ポイ】を一瞬でだめにしてしまう。ちなみにうちの地元のお祭りでは、和紙を針金に張った【ポイ】ではなく、針金にモナカの皮を刺したタイプの【ポイ】が使われていた。濡れてだめになった【ポイ】のモナカが、金魚の水槽に浮かんでいた。食いしん坊の満男がそれをすくって食べようとするので、秀が頭をはたいてやめさせる。
夏には怖い話の大会をした。だれかの家にあつまって、心霊体験の話を披露するのだが、女子よりも秀の怯え方がひどかった。彼は怪談話に免疫がないらしく、子どもの頭でかんがえた嘘くさい話でも、ギャーギャーと怖がってうるさかった。
ちなみに、俺の披露する心霊エピソードは怖すぎると仲間内で評判だった。リアリティがあり、本当に起こりそうな不気味さがあるという。当然だ。俺が語った怖い話は、すべて曽祖母の実体験なのだから。
曽祖母には霊感があったらしい。祖父の母親にあたる人物で、俺が生まれるよりも前に亡くなっていたが、仏間に遺影が飾られているので顔は知っている。
彼女には頻繁に死者の姿が見えていたそうだ。死者に足をつかまれた話や、死んだはずの知り合いが枕元に立っていた話などを、息子である祖父によく聞かせていたという。
夏の行事で外せないものと言えば、花火だ。小学六年生の夏の夜、俺たちは親に内緒で子どもだけで花火を楽しんだ。
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