俺たちの暮らしていた町は、東京から新幹線と私鉄を乗り継いで五時間ほどの距離にある。山裾の平野部に水田が広がり、夏には一面が緑色の景色になる。山の斜面でフルーツを栽培する農家も多く、秋になると近所の方から、食べきれないほどのおすそ分けをいただいた。
都会のように家が密集しておらず、すこし離れた友人の家へ遊びに行く時は、自転車に乗って田園地帯を越えなくてはならない。稲の緑色の葉先が海のように波打っている中を、一人乗りのボートで旅するみたいに、自転車で俺たちは移動する。
俺とユウナ、笹山秀(しゅう)と三森満男、そして戸田塔子の五人で遊ぶことが多かった。ユウナ以外は保育園時代からの顔なじみだったが、神社にあつまって鬼ごっこをしたり、缶蹴りをしたり、携帯ゲーム機の無線通信でポケモンの交換をしたりするうちにすっかり仲良くなった。
エアコンの効いた室内でゲームをしたい日は秀の家に行くのが定番だ。彼は眼鏡をかけた秀才タイプの少年で、所有するゲームソフトの数はクラスメイトで一番だ。宿題を写させてほしい時も、彼にお願いするのがいいとされていた。
満男の家はお菓子の卸売業者である。腹が空いた日は彼の家にあつまるのが賢い選択だ。満男はふくよかな少年だったが、両親も同じような体型だった。おなかを空かせた俺たちがあつまると、業務用の大袋のお菓子を開けて好きなだけ食べさせてくれる。
塔子は活発なスポーツ少女だ。父親が野球チームのコーチをしており、彼女の家に行けばバットやグローブを貸してくれた。中古のピッチングマシーンまで所有しており、彼女の父親にお願いすれば、バッティングの練習をさせてもらえた。
朝になれば五人で登校し、夕方になれば五人で家路につく。途中、それぞれ好き勝手なことを話しながら歩いた。
「今、桃鉄でコンピューター同士を戦わせて遊んでるんだ。僕は何もせずに見ているだけなんだけど。コンピューターの設定を変えて勝率のデータを収集してるよ」
「大阪に出張したお父さんが、おいしい肉まんを買ってきてくれたんだ。みんなにも食べさせてあげたかったなあ」
「誕生日に野球のスパイクを買ってもらうの。すごくいいやつ。今、カタログで選んでるところ」
秀と満男と塔子の後ろで、俺とユウナは漫画の話をする。といっても、俺は彼女ほどには漫画のことを知らない。彼女が楽しそうに話すのを、ただ聞いていることが多かった。
「大地君は『コロコロ』も読んでた?」
「ああ、読んでたぜ。『でんぢゃらすじーさん』が好きだったな」
「私も大好きだった。でも、下品だからって、コミックスを親に買ってもらえなかったんだ」
「うちの場合、本は比較的、何でも買ってくれるぜ。たとえギャグ漫画でもな。何も読まないよりはましだろうって思われてるみたいだ。でも、『ジャンプ』を買うようになって、『コロコロ』を買う余裕はなくなっちまった。満男が今も買ってるから、あいつの家で読めばいいかって思ってる。ちなみに過去の『ファミ通』のクロスレビューが気になる時は秀の家に行けばいい」
「秀君の部屋の本棚、ゲーム雑誌がたくさんあったもんね」
各自、家の近くまで来ると集団から離脱する。「また明日!」と手を振って家に入っていく。俺とユウナは小学校から一番遠い地区に家があった。一人ずつ家に消えていくのを見送って、最後に二人でならんで夕日の中を歩くことになる。
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