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- オーラの発表会
- 価格:770円(税込)
大学一年生の海松子(みるこ)は、対人関係が苦手。お洒落や恋には興味なし。
特技は脳内で他人に(失礼な)あだ名をつけることで、口臭から相手が食べたものを当てる能力を磨き中。
友達は、人の髪型や服を真似する「まね師」の萌音(もね)だけ。人を好きになる気持ちもわからないのに、幼馴染とイケメン社会人から好意を寄せられていて!?
周りとうまくやりたいのにやれない主人公の、不器用で愛おしい恋愛未満小説『オーラの発表会』(綿矢りさ・著)の冒頭を公開!
***
今この瞬間も知らぬうちに呼吸して瞬きして、身体じゅうどこも痛くならずに座っていられるのは、ものすごい奇跡だ。でも奇跡な分、少しでも均衡が崩れたら脆く壊れてしまう危険が、いつだって皮膚の表面にへばりついている。思わず自分の身体を抱きかかえたまま暗がりへ逃げ込みたくなる。
外に出ると奇跡はもっと増える。道路をひっきりなしに走っているたくさんの車に一度も轢かれたことが無いのがまず奇跡だし、空から飛行機やヘリコプターや隕石や死んだ鳥が落ちてこないのも、こんなにたくさんの人間がいる世の中で誰かに刺されないのも奇跡だ。
普段は“なぜ自分はいまの今まで無事に生き長らえてこられたのだろう”という疑問は頭の底に押し隠して、私は生きていて当然の人間なのだと納得してごく普通に過ごしている。たとえば空からヘリコプターの回転翼の音が響いてきても、落ちてくるかもと心配して家の屋根の下へそっと隠れたりはせずに、空を仰いで太陽の眩しさに目を細め、広い空では蝿くらいに見えるヘリの行く先を、ぼんやり眺めてみたりする。
しかし夜になり一度寝床に入って目を閉じてしまうと、自分が生きている不思議、こんな奇跡がいつまでも続くわけがない、明日には死ぬんじゃないかと気が気でなくな
る。
まぶたの裏側。完全な闇のようでいて凝視すると薄明るくて、いくつもの光の筋が上から下へあるいは右から左へ、血管内の細胞みたいに移動している。筋をより細かく観察しようとしても、それはもっとも目玉の近くで、むしろ角膜に密着しているのに、いやだからこそ、ぼやけてよく見えなくて、端に消えて諦めた途端また現れる。筋を追っていくうちに、目に力が入って、焦点がずれて左目と右目の黒目の位置が全然あべこべの方向へ離れていきそうで気持ち悪い。黒目がずれてそのまま裏側にぐるりと回ってしまいそう、視神経が切れて失明したらどうしよう。急いで目を開ける。
まぶたの裏の光の筋を追いかけすぎると失明する。
このなんの根拠もない自分で編み出した迷信に子どもの頃の自分はひどく怯え、眠るのが恐く、あわてて目を開ける夜は何度もあった。
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