『音楽を信じる We believe in music!』
- 著者
- 村井邦彦 [著]
- 出版社
- 日経BP 日本経済新聞出版
- ジャンル
- 文学/日本文学、評論、随筆、その他
- ISBN
- 9784296118939
- 発売日
- 2024/05/17
- 価格
- 1,870円(税込)
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<書評>『音楽を信じる We believe in music!』村井邦彦 著
[レビュアー] 篠崎弘(音楽評論家)
◆才能あふれる教養人の足跡
赤い鳥の「翼をください」やテンプターズの「エメラルドの伝説」など数々のヒット曲を作曲し、音楽出版社を設立して後にフランク・シナトラで大ヒットする「マイ・ウェイ」の日本での権利を買い取った。最初の専属作曲家はまだ高校生だったユーミン。1977年にはアルファレコードを設立してYMOを世界に売り出した……。
作曲家兼プロデューサー兼レコード会社経営者。著者は日本のポップス界にはそれまでいなかったタイプの人間だった。その経歴を振り返る日経新聞の連載「私の履歴書」(2023年2月)に新たな書き下ろしエッセーを加えたのが本書。日本の音楽界に著者が残した大きな足跡が詳しくつづられている。
一読してまず、交友の広さに驚く。ミュージシャンや作詞家、作曲家はもちろん、歌舞伎の二代目中村吉右衛門、キャンティの川添浩史夫妻とその長男の象郎(しょうろう)、俳優の勝新太郎、文学の山崎正和、辻邦生、料理家の辻静雄、実業界では梁瀬次郎、牛尾治朗、外国ではA&Mレコードのハーブ・アルパートとジェリー・モス、作曲家のジョン・ウィリアムズ、ミシェル・ルグラン、アトランティック・レコードの創業者アーメット・アーティガン……。
才能が才能を呼ぶとはこういうことかと感心する。ただ、元が字数に制限のある新聞連載の「履歴書」だけに、これら錚々(そうそう)たる顔ぶれとの深いやりとりや、人間味を感じさせる細かいエピソードが少ない点が惜しまれる。
第2章以降が読ませる。アパートを持っていたこともあるパリにまつわるエッセー10編では、清岡卓行、アーウィン・ショー、永井荷風らとパリの物語がつづられ、著者が読書家で一流の教養人であることがうかがえる。
第4章は「YMO前史」。72年に作った最新のスタジオAの周辺に集まった多くの若い才能あるミュージシャンの星雲の中から、互いに引き寄せられるようにYMOが誕生した様が、送り出した側の視線で語られる。貴重な証言だ。
(日経BP、日本経済新聞出版・1870円)
1945年生まれ。作曲家、プロデューサー。米国ロサンゼルス在住。
◆もう一冊
『村井邦彦のLA日記』村井邦彦著(リットーミュージック)