クラスに馴染めない「転校生男子」が「優等生女子」を凍り付かせた不穏な言葉とは…? 名前を持たない悪意をテーマに辻村深月が挑む初の本格ホラーミステリ長編『闇祓』試し読み

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 学校というのは、不思議なところだ。小学校、中学校、高校。どの段階に進んでも、どのクラスに属しても、教室の中にくっきりと層ができる。スクールカーストという言葉がある、と聞いた時には、なるほど、と思わず納得してしまった。クラスの中の、上位グループと、下位グループ。上とか下、という言い方は好きではない。それぞれ興味の対象が違うだけで、どっちの方が優れているということではないと思う。けれど、わかってしまう。積極的なタイプと、控えめなタイプ。派手なタイプと地味なタイプ。うるさいか、おとなしいか。
 上と呼ばれるグループの方が、確かに積極的だったり、派手でうるさい傾向にあるから、発言権が強い。でも、それは裏を返せば──無神経だからだ、とも思う。無神経なタイプの方が気が弱いタイプより「上」を名乗っているんだとしたら釈然としない。
 中学校の頃、おとなしいグループの子と話していたら、「澪ちゃんは、あっちのグループの子なのに優しいね」と言われたことがある。
 すぐには意味がわからず、きょとんとしていると、その子に続けて言われたのだ。
「たまにいるよね。グループ関係なく、上とか下とか関係なく、真ん中で、どっちともしゃべれる子たち」
 自分で自分のことを「下」と平然と言ってしまえるその子の言葉に胸が痛かったけれど──その一方で、確かにそうかも、と思った。「上」の子たちは、「下」の子たちに無神経に話しかけているけど、「下」の子たちから「上」の子に話しかけることはほとんどない。遠慮している。
 真ん中、と呼ばれる自分の立ち位置に、妙に納得できる。実際、仲良くなる子にもそういう子が多いかもしれない。たとえば、今仲のいい花果や沙穂もそうだ。校則が厳しい真面目な進学校でも、不思議なものでコスメやおしゃれに熱心なタイプや、遊び好きの不良タイプもそれなりに出てくる。他校の生徒としょっちゅう合コンしてるような「上」の子たち。花果と沙穂は運動部だし沙穂は彼氏がいて、そういうのは、本当に地味なタイプの子たちから見ると、若干派手に見えるかもしれない。けれど、二人とも優しいし、悪ノリはするけど、無神経なタイプじゃない。
 気を遣える。
 そして、そんな周りの子たちと比べても、我ながら、澪はとりわけ気を遣う方だった。さっき、白石に向けてそうしたように、いつも、誰にでも気を遣ってしまう。
 優等生、と言われるけれど、本当はわかっている。

辻村 深月(つじむら みづき
2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『この夏の星を見る』など著書多数。

KADOKAWA カドブン
2024年7月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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