クラスに馴染めない「転校生男子」が「優等生女子」を凍り付かせた不穏な言葉とは…? 名前を持たない悪意をテーマに辻村深月が挑む初の本格ホラーミステリ長編『闇祓』試し読み
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各教室では、部活が始まっているようだった。
音楽室から、ブラバンのパート練習の音が聞こえる。澪は陸上部だ。今日は行くのが遅くなると同じ部の子に伝言を頼んだけれど、先輩たちにサボりだと思われなければいいな、とちょっとだけ気になる。
澪は、優等生だ、と人によく言われる。
自分でも、そうなんだろうな、と思っている。尤(もつと)もそれは、褒め言葉だとは絶対に思わないけれど。
幼い頃から、気づくと面倒見がよかった。弟がいるから、ということも多少影響しているかもしれないけれど、小学校の低学年の時にはもう、先生や大人たちから「しっかりしている」と言われることが多かった。クラスや班、部活の中で、みんなの輪に入れないでいる子がいると気になって声をかけたし、風邪で何日も休んでいた子がひさしぶりの学校に戸惑っていると、特に仲良しの子というわけでなくても近寄って行って「おはよう。一緒に遊ぼうか」と誘った。
そうすると、先生や、大人たちからこう言われるようになった。
「さすが澪ちゃん」
褒められると嬉(うれ)しかったが、褒められるためにしている、というわけでもなかった。
いい人ぶってるとか、そういうことではなくて、ただ、そういうものだからやるべきだ、と思っているだけだ。実際、いい人ぶってるという陰口は、これまで聞き飽きるほど聞いてきた。仲がよくない子から言われることもあるし、同じグループの子たちからだって言われる。優等生だよね、という花果の言葉も、だから感心なんかじゃ絶対にない。その声の裏に「よくやるよ」という、別の声が二重になって聞こえるように思えることもある。
だけど、気になって、ほっとけないのだ。なんとなく、やってしまう。一人でいると寂(さみ)しいだろうな、たとえ本人が寂しくないと思っていても、友達がいないように周りに見えていると考えたら、複雑な気持ちなんじゃないか、と。
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