クラスに馴染めない「転校生男子」が「優等生女子」を凍り付かせた不穏な言葉とは…? 名前を持たない悪意をテーマに辻村深月が挑む初の本格ホラーミステリ長編『闇祓』試し読み
試し読み
澪たちの通う三峯(みつみね)学園は私立高校だ。千葉県内では歴史は古い方の、いわゆる進学校。私立のせいか転校生は滅多にいないが、それでもごく稀(まれ)に転入を受け付ける代がある。そして、転入試験は入学試験より難しいという噂が確かにある。
「転入受け付ける以上は、大学進学の実績を稼いでくれそうな子を学校側だって選びたいってことでしょ? 白石くんも、相当頭いいんじゃない?」
私立の進学校だけあって、三峯学園はそのあたりはシビアだ。学校案内や校舎の壁に、まるで大手の塾ばりに、前年の大学合格者数の実績が貼り出される。
「そうだね。でも転校してきたばかりだし、あんまり決めつけた目で見るのはかわいそうだよ。頭いいかも、とかもだけど、さっきみたいに暗そうとか」
「ええ~、でもさぁ」
セミロングの髪を耳にかけつつ、沙穂がまだ何か言いたげにしている。そこに、「原野(はらの)」と声をかけられた。いつの間に来たのか、南野先生がすぐ近くに立っていた。花果と沙穂が、ばつが悪そうに黙り込む。澪は至って平然と「はい」と返事をした。南野先生が言う。
「悪いけど、白石のこと、よろしくな。できたら放課後、何人かで学校を案内してやってくれないか? 本当は宮井(みやい)がいたら頼んだんだけど、今日は休みだから」
宮井はクラスの副委員長を務める男子だ。南野先生の言葉に花果と沙穂が意味ありげに目配せをするのがわかったけど、見なかったふりをした。
「わかりました」
「よかった。どんな部活や行事があるかとか、だいたいのところは俺からもう伝えておいたから、場所だけ、案内してやって」
「はい」
担任教師が行ってしまうと、花果と沙穂がにやにやしていた。澪に向けて小声で「さっすが委員長」と呟(つぶや)く。沙穂の方が「優しくすると、よりいっそう、好きになられちゃうかもよ」とからかってくる。
「バカなこと言わないで。ほら、さっさと食べないと昼休み、トイレ行く時間なくなるよ」
呆(あき)れがちに笑って注意する。花果は「澪って本当に優等生だよね」と笑い、沙穂はまだ「澪、モテるからなぁ」とか言っている。二人だって本気で言っているわけではないのだし──、と聞き流しながら、ふと顔を前に向けて、澪は、え? と思う。
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