『ジャック・デリダ その哲学と人生、出来事、ひょっとすると』ピーター・サモン著

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ジャック・デリダ──その哲学と人生、出来事、ひょっとすると

『ジャック・デリダ──その哲学と人生、出来事、ひょっとすると』

著者
ピーター・サモン [著]/伊藤潤一郎 松田智裕 桐谷慧 横田祐美子 吉松覚 [訳]
出版社
株式会社Pヴァイン
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784910511689
発売日
2024/02/21
価格
3,740円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『ジャック・デリダ その哲学と人生、出来事、ひょっとすると』ピーター・サモン著

[レビュアー] 郷原佳以(仏文学者・東京大教授)

 フランスの哲学者ジャック・デリダは、その思想が英語圏で広まるにつれ、逆説を弄(ろう)し曖昧な言説を展開する相対主義者との誹(そし)りを受けるようになった。最近も、ポスト・トゥルース状況をもたらしたというあらぬ疑いをかけられている。

 本書は伝記の形を取ってはいるが、デリダの人生を明かすというよりも、あくまで哲学者としてのデリダに焦点を当て、彼がいかなる哲学的文脈においていかなる問いを引き受けてきたのかを年代順に示し、先のような誤解を晴らす。『グラマトロジーについて』など、厳選された論文に明解な解説が加えられ、入門にも復習にも適した概説書だ。

 デリダについて、発話優位の伝統に対して文字の重要性を訴えたとか、「差延」などの風変わりな概念を作ったといった断片的知識で把握していると、先のような誤解に陥りやすい。対して、文字の問題は、幾何学の理念的対象はいかにして永続性を持つのかというフッサールの問いとの対(たい)峙(じ)から生じたといった文脈を知れば、誤解は生じない。

 専門家による訳文は読みやすく、訳注も必読だ。伊藤潤一郎ほか訳。(Pヴァイン、3740円)

読売新聞
2024年6月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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