『BLと中国』
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『BLと中国 耽美をめぐる社会情勢と魅力』周密著
[レビュアー] 池澤春菜(声優・作家・書評家)
同性愛文化に託す思い
去年の秋、中国成都の世界SF大会にゲストとして呼ばれた。トークショーの中で、観客から「日本のSFと耽美(たんび)の関係を聞きたい」という質問が出た。耽美とはなんだろう?と思ったら、中国でのBL(ボーイズラブ)、男性同士の恋愛を扱ったジャンルのことだと言う。日本の出版社の編集さんが日本のBLを取り巻く状況や、SFとの関わりを話し始めたが、同時通訳の様子がおかしい。そのうち「これはわたしは翻訳できません。この言葉は禁じられています。これは言えません」と沈黙してしまった。気付かぬうちに禁忌を踏んでいたらしい。中国で同性愛は禁じられてはいない、ただ、ないものとして扱われている。社会通念上、それは存在しない、言葉も概念もない。
けれどあるのだ。耽美という言葉が表すものが、確かに存在する。そのねじれや、重圧や、規制をどのように掻(か)い潜(くぐ)って同好の士たちは交流しているのだろう、と不思議に思っていたら、かっこうの本を見つけた。
歴史上、中国でも同性愛が許容されていた時代もある。文献や文学でも言及されている。優れた詩歌もある。
しかし一九四九年以降、中国では「生物学的実証主義の公的言説によって、自然に女らしさや男らしさ、性的指向といった性の特徴がすでに決定され、変えられるものではない」とされた。社会的に統制されている状況だ。
BLはただ趣味嗜(し)好(こう)なのではない。時にジェンダーロールからの解放や抑圧への反発が込められている。中国でも耽美にはさまざまな願いや思いが託されていた。何よりも好きなものを邪魔されたくない!という腐女子(BLを好む女性)たちの熱いエネルギーは、今も昔も、日本も中国も変わらないのだ。
日本BLから見る中国BLの魅力と欠点なども分析されていて、とても興味深く読んだ。
中国耽美、わたしも手を出しちゃうか……!(ひつじ書房、3740円)