『ルポ年金官僚』
書籍情報：ＪＰＯ出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
『ルポ年金官僚』和田泰明著
［レビュアー］ 佐藤義雄（住友生命保険特別顧問）
公的年金は激しい論争や政争の的となってきた。
本書は長年にわたって年金問題を追ってきたジャーナリストが波乱万丈といってもよい制度改正の歴史について、官僚を軸にした視点で描いたもの。保養施設の建設など杜撰（ずさん）な運用や「年金未納」「消えた年金記録」などの問題が年金制度に対する不信感を生んだ負の歴史も振り返る。
年金改革は元厚生労働省年金局長によれば「極めて複雑な利害関係の絡む壮大な多元連立方程式」を解くことであるという。人口構造の変化や物価変動により負担と給付を巡る世代間対立が生じやすいことや企業負担も大きいことなどを考えれば表現は大げさではない。数理に基づく制度の理解が容易ではないことも激しい論争を生みやすい。
年金制度に対する国民、とりわけ若年層の不信感は根強い。この制度が老後を支える柱としてどれだけ頼りになるか、維持充実の方策はないか、自助努力がどの程度必要になるかなどの率直な議論が求められる。
本書は当事者の肉声も交えた読みやすい構成となっている。公的年金を考える一助となる貴重な一冊。（東洋経済新報社、２４２０円）
-
2024年6月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです
