コロナ後遺症の倦怠感は“亜鉛不足”が原因か?「慢性疲労」の患者を診察・治療してきた医師が語る

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コロナ後遺症を改善するには(画像はイメージ)

いまだに多くの人を苦しめている「コロナ後遺症」。新型コロナウイルス感染症により入院した患者さん1,066例を対象とした追跡調査では、診断から12ヵ月後でも約30%、およそ3人に1人に後遺症が認められているデータがあります(文献1)。これまでコロナ後遺症の中心的症状である「慢性疲労」の患者さんを数多く診察・治療をしてきた、堀田修医師。コロナ後遺症の特徴と、患者さんに不足する栄養素、気を付けたい点について解説します。

コロナ後遺症の中心的症状は「慢性疲労」


コロナ後遺症の主な症状

 日本でも多くの方を悩ませている病気の一つに「慢性疲労症候群」があります。慢性疲労症候群では、日常生活が著しく損なわれるほどの強い全身倦怠感、慢性的な疲労感が休養しても回復せず、6カ月以上の長期にわたって続きます。
 2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって間もなく、感染後に長引く体調不良に苦しむ「コロナ後遺症」が注目されるようになりました。
 疲労感・倦怠感はコロナ後遺症における最も頻度が高い症状です。味覚障害や嗅覚障害などは通常の慢性疲労症候群ではほとんど認められませんが、「コロナ後遺症の中心となる症状は慢性疲労症候群そのものである」という見方も成り立ちます。

 コロナ後遺症の症状をまとめます。
 新型コロナウイルス感染症の流行が始まった初期、武漢株の頃は、コロナ後遺症の患者さんの頻度は感染者の半数近くと高頻度でしたが、変異を繰り返すたびにその割合が減少し、オミクロン株では10%から20%の患者さんがコロナ後遺症を発症すると報告されています。
 コロナ後遺症では実にさまざまな症状が認められますが、中でも倦怠感、疲労感、頭痛、ブレインフォグ(頭の中に霧がかかった感じ。集中力や記憶力の低下)、気分の落ち込みは特に頻度の高い症状です。

 頭痛、めまい、不随意運動などの症状のため脳の異常が疑われて、頭部のMRIやCT検査がしばしば実施されますが、異常を認めるケースはほとんどありません。血液検査でもやはり異常がないことが多いのですが、一方で、亜鉛欠乏の患者さんが少なくありません。私のクリニックを受診したコロナ後遺症の患者さんの約4分の3が亜鉛欠乏の状態でした。体の亜鉛不足は、味覚・嗅覚障害や皮膚炎、口内炎、脱毛、性機能障害など、さまざまな症状を引き起こすとされています。

 このように症状は多彩ですが、嗅覚・味覚障害を除けば、コロナ後遺症は、

【1】頭痛、咳、痰、咽頭痛などの慢性上咽頭炎の炎症そのものによる症状
【2】倦怠感、疲労感、ブレインフォグ、脱力感、気分の落ち込み、不眠、動悸、下痢などの大脳辺縁系、視床下部(視床下部―下垂体―副腎皮質系)の異常

 これで、ほとんどの症状が説明可能です。

 嗅覚と味覚の障害は同時に起こることが少なくありません。嗅覚障害については嗅神経そのものの障害とするには早期に改善する例が多いため、神経自体の障害というより、神経周辺にある嗅細胞の支持細胞への障害により、嗅神経の機能が阻害されている可能性が有力とされています。
 また、味覚障害に関しては、舌の味覚をつかさどる組織である味蕾(みらい)や神経へのウイルスによる障害に加え、嗅覚障害に伴い、食品の匂いがわからないことによる風味の障害が機序として想定されています。

患者さんの4分の3が亜鉛不足


慢性疲労解消のために栄養層をとろう

 亜鉛は体のさまざまな細胞機能と関連しています。大脳辺縁系にある海馬と扁桃体には亜鉛が豊富に存在して、記憶や感情に重要な役割を果たしています。2~3割の日本人が亜鉛不足といわれていますが、当院に受診された、コロナ後遺症の4分の3の患者さんが基準値下限の80mg/dlを下回っていました。中等度以上の亜鉛欠乏状態の患者さんは、市販の亜鉛サプリメントや亜鉛を含んだ胃薬では補充効果が不十分で亜鉛製剤(酢酸亜鉛)を服用するのが最善です。

 マグネシウムが欠乏している慢性疲労の患者さんの数は亜鉛欠乏に比べるとかなり少ないものの、マグネシウムは神経伝達物質の生成にかかわっており、その不足は不安やうつとも関連するとされています。
 マグネシウムは亜鉛より食事からの補充が容易です。ほうれん草などの葉物野菜や、アボカド、ナッツ、チアシード、豆類、全粒穀物、豆腐、サケやサバなどの魚に多く含まれています。

 また、慢性疲労症候群の患者さんでは、ビタミンD不足の人が多いことが以前より指摘されています(文献2)。ビタミンDが多く含まれる食品は、イワシ、サケ、ニシンなどの魚類です。
 慢性疲労に関連するビタミンDや必須ミネラルである亜鉛やマグネシウムなどは、患者さんに不足しがちです。必要に応じて補充するようにしてください。

参考文献
1. 厚生労働省:厚生労働省:厚生労働科学特別研究事業.新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の長期合併症の実態把握と病態生理解明に向けた基盤研究.令和3年度 総括研究年度終了報告書. 研究代表者 福永興壱. 令和4(2022)年4月
2. Berkovitz S, et al. Int J Vitam Nutr Res (2009). https://doi.org/10.1024/0300-9831.79.4.250

堀田修(ほった・おさむ)
1957年、愛知県生まれ。防衛医科大学校卒業、医学博士。「木を見て森も見る医療の実践」を理念に掲げ、2011年に仙台市で医療法人モクシン堀田修クリニックを開業。特定非営利活動法人日本病巣疾患研究会理事長、IgA腎症・根治治療ネットワーク代表、日本腎臓学会功労会員。2001年、IgA腎症に対し早期の段階で「扁摘パルス」を行えば、根治治療が見込めることを米国医学雑誌に報告。現在は、同治療の普及活動と臨床データの集積を続けるほか、扁桃、上咽頭、歯などの病巣炎症が引き起こすさまざまな疾患の臨床と研究を行う。近年はEAT(上咽頭擦過療法)を使った「新型コロナ後遺症」への取り組みも注目を集めている。『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』(あさ出版)。

あさ出版
2024年6月23日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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