だるくて、疲れが続く慢性疲労には「鼻うがい」がオススメ 医師が解説するセルフケアと日本オリジナルの治療法

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慢性疲労に効果的なセルフケアとは?(画像はイメージ)

なんとなくだるい、すぐに疲れてしまう。そんな不調がずっと続いていたら、今すぐ「慢性疲労」を疑ってみてください。「慢性疲労」はれっきとした病気であると述べるのが、これまで1,000人を超える「慢性疲労」の患者さんを診察・治療をしてきた、堀田修医師。コロナ後遺症ともかかわりが深い「慢性疲労」の治療法、そして自宅でもできるセルフケアについて解説します。

慢性疲労に効く日本オリジナルの治療法とは

「慢性疲労」は、脳の炎症によってもたらされるものであり、そのもとをたどると、自律神経のうち副交感神経の約8割を占める、全身に分布する重要な神経「迷走神経」と、鼻の奥に位置する「上咽頭」の炎症にたどりつきます。
 迷走神経の炎症を治すといっても、神経の炎症であるため一般的な抗炎症薬が効くわけではありません。迷走神経の炎症を抑える方法として海外で注目を浴びているものにVNS(Vagus Nerve Stimulation)と呼ばれる「迷走神経刺激療法」があります。この方法は迷走神経の炎症のみならず「脳の炎症」を抑制することが期待されています。これは、電気的な神経刺激装置を使って、頸部の迷走神経に電極を巻き付けて迷走神経を電気刺激する方法です。


上咽頭擦過療法

 VNSは電気を使用しますが、電気を使わずに、この迷走神経を刺激する簡単で安価な治療法、それが「上咽頭擦過療法」(EAT:Epipharyngeal Abrasive Therapy)です。
 EATとは迷走神経が豊富に分布している上咽頭を薬液(通常は0.5%から1%濃度の塩化亜鉛溶液)を浸した綿棒で擦過する治療法です。
 この方法は1960年代に東京医科歯科大学の初代耳鼻咽喉科教授である堀口申作先生によって始められた日本オリジナルの治療法で、耳鼻咽喉科医の間で一時期脚光を浴びました。しかし、残念なことに、【1】治療に伴う痛み、【2】低い診療報酬などの理由で、実施する医師が1980年代以降、ほとんどいなくなってしまいました。ですが10年ほど前から、腎臓病の一つであるIgA腎症などとの関連でこの治療の価値が見直され、最近になり再び注目を集めつつあります。
 EATは、日本オリジナルの安価で強力なVNSなのです。

自分でもできる「慢性疲労」を解消する方法

 上咽頭を健康な状態に戻すうえでEATはもちろん重要ですが、セルフケアとして上咽頭を洗う「鼻うがい」「上咽頭洗浄」は炎症を抑え、ウイルス、粉じん、黄砂など、炎症を引き起こす原因から上咽頭を守るために役立ちます。


いつでもできる上咽頭洗浄

 鼻は自然に備わった空気浄化装置ですが、口から吸いこんだ空気は浄化作用を受けないまま、上咽頭を刺激してしまいます。そこで、口呼吸の習慣のある人は普段の呼吸を鼻呼吸に変える必要があります。そのために役立つのが舌位置アップのための「かにゆで体操」や就寝時の「口とじテープ」(マウステープ)です。

 微小循環の障害で生じた瘀血(おけつ。炎症物質が含まれる汚れた血液)は健康の土台が傾く原因となるため、取り除く必要があります。上咽頭の瘀血はEATで取り除くことができますが、全身の瘀血を取り除くためには「パワーかっさ」(強めのかっさ)が有効です。また、「パワーかっさ」は自律神経システムにも好影響を与えます。

 慢性疲労を訴える患者さんの自律神経の状態は、単に交感神経と副交感神経のバランスが崩れているだけでなく、交感神経レベルと副交感神経レベルがともに低下した状態と言えます。自律神経システムが健康な状態とは、交感神経と副交感神経(約80%が迷走神経)の両方が適度に緊張しており、ゆったりとしているけれども適度な緊張感と集中力があります。

 交感神経レベルが高くて副交感神経レベルが低い状態の典型が「闘争」と「逃走」です。喧嘩しているとき、火事や突然の自然災害などで急いで危険な状態から逃げ出しているときなど、瞬発力と集中力が高まった状態ですが、同時にストレスが大きい状態です。交感神経レベルが低くて副交感神経レベルが高い状態は、まったりとリラックスした状態ですが、意欲や活力は乏しい状態です。


自律神経のレベルを高めるには

「慢性疲労」は交感神経レベルも、副交感神経レベルも低下した不安定な状態です。動悸、イライラ感、不眠、不安などの症状は副交感神経レベルが極度に低下しているために交感神経系が相対的に優位になることで生じます。

 この状態では副交感神経レベル、あるいは副交感神経レベルと交感神経レベルをともに高めることが必要な治療となります。EAT、頭部の治療ポイントを中心とした「鍼治療」(YNSA)、皮膚に刺したときに出血しない程度に尖った金属棒で治療ポイントを突っつく「チクチク療法」(無血刺絡療法)には直接迷走神経を刺激して副交感神経レベルを高める作用があります。自然塩を溶かした塩水を飲む「塩水療法」にもこの作用がある程度期待できます。
 低温サウナを利用して体を温める「和温療法」は副交感神経レベルのみを高める治療法で、副交感神経レベルが特に低くて交感神経優位の状態の患者さんにおすすめです。

 こうしたさまざまな治療法、セルフケアを組み合わせることで、一人でも多くの方が「慢性疲労」から解放されることを祈念しています。

堀田修(ほった・おさむ)
1957年、愛知県生まれ。防衛医科大学校卒業、医学博士。「木を見て森も見る医療の実践」を理念に掲げ、2011年に仙台市で医療法人モクシン堀田修クリニックを開業。特定非営利活動法人日本病巣疾患研究会理事長、IgA腎症・根治治療ネットワーク代表、日本腎臓学会功労会員。2001年、IgA腎症に対し早期の段階で「扁摘パルス」を行えば、根治治療が見込めることを米国医学雑誌に報告。現在は、同治療の普及活動と臨床データの集積を続けるほか、扁桃、上咽頭、歯などの病巣炎症が引き起こすさまざまな疾患の臨床と研究を行う。近年はEAT(上咽頭擦過療法)を使った「新型コロナ後遺症」への取り組みも注目を集めている。『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』(あさ出版)。

あさ出版
2024年6月21日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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