なんとなくだるい、すぐに疲れてしまう。そんな不調がずっと続いていたら、「季節の変わり目だから」「気のせいかも」と決めつけて放置せず、「慢性疲労」を疑ってみてください。「慢性疲労」はれっきとした病気であると述べるのが、これまで1,000人を超える「慢性疲労」の患者さんを診察・治療をしてきた、堀田修医師。コロナ後遺症ともかかわりが深い「慢性疲労」はどのように生じるか、解説します。
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「慢性疲労」の研究が世界的に進んでいる
日本で多くの方を悩ませている病気の一つに「慢性疲労症候群」があります。慢性疲労症候群では、日常生活が著しく損なわれるほどの強い全身倦怠感、慢性的な疲労感が休養しても回復せず、6カ月以上の長期にわたって続きます。
慢性疲労症候群という診断はついていなくても、慢性的な疲労感・倦怠感に悩まされたり、家事や仕事の後や、職場や家庭での些細な人間関係のストレスを受けたりした後に、強い疲労感が出て日常生活に支障をきたしている人は少なくありません。
2020年に新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって間もなく、感染後に長引く体調不良に苦しむ「コロナ後遺症」が注目されるようになりました。
疲労感・倦怠感はコロナ後遺症における最も頻度が高い症状です。味覚障害や嗅覚障害などは通常の慢性疲労症候群ではほとんど認められませんが、「コロナ後遺症の中心となる症状は慢性疲労症候群そのものである」という見方も成り立ちます。
医学の世界では数年前まで慢性疲労症候群が注目されることはあまりありませんでした。ですが、コロナ後遺症が世界中で大きな問題になったことで「慢性疲労」に関する研究が一気に進みました。その成果の一つが疲労感の原因が脳の炎症であることの示唆でした。
迷走神経から脳へ炎症が広がり「慢性疲労」が生じる
この「脳の炎症」を含めた、コロナ後遺症が発症するメカニズムについては、主に以下の原因があるとされています(文献1)。
【1】ウイルスの持続感染
【2】腸内の微生物環境の異常
【3】自己免疫機序の誘導(自分の体の細胞を攻撃する抗体がつくられる)
【4】微小血栓の形成(細い血管で小さい血栓がつくられる)
【5】迷走神経の異常(炎症)
その中で、私がこれまで多くの患者さんの診療を通して、コロナ後遺症の中心的役割を果たしていると実感するのが、ウイルス感染によって引き起こされる「迷走神経の炎症」です。実際、コロナ後遺症の患者さんでは頸部の迷走神経が炎症のために肥厚していることがエコー検査で確認されています(文献2)。
迷走神経は自律神経のうち副交感神経の約8割を占める、全身に分布する重要な神経です。迷走神経が炎症を起こすと副交感神経と交感神経とのバランスが崩れてしまい、体にさまざまな異常をきたします。
迷走神経は副交感神経として呼吸、心拍、消化管運動などにかかわっているため、迷走神経が炎症を起こすと、呼吸困難、動悸、胃もたれ、下痢、便秘、腹痛などの症状が現れます。
また、延髄の孤束核(こそくかく)に向かう迷走神経(求心性迷走神経)が炎症を起こすと、延髄からさらに大脳の視床下部や大脳辺縁系にまで炎症が広がり(「脳の炎症」です)、その結果としてめまいなどの自律神経系の障害や頭痛、倦怠感、疲労感、集中力の低下、記憶力の低下などの身体症状を引き起こします。
「慢性疲労」のおおもとは?
では、迷走神経の炎症が始まる、つまり「火種」がつくられている体の場所はどこでしょうか?
【1】コロナ感染で炎症が生じる場所
【2】迷走神経が分布している場所
この二つを満たすことが条件です。そして、その場所こそが「上咽頭」です。鼻の奥で両側の鼻腔から入った空気が合流し、肺に向かって下方に方向を変える上咽頭は細い毛が生えた繊毛上皮で覆われており、ウイルス、細菌、粉塵などが付着しやすい場所です。
上咽頭で生じた火種が迷走神経という導火線を伝わり、延髄や大脳に到達して「脳の炎症」を引き起こすのです。
参考文献
1. Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol (2023). https://doi.org/10.1038/s41579-022-00846-2
2. Llados G et al. Clin Microbiol Infect (2023).https://doi.org/10.1016/j.cmi.2023.11.007
堀田修(ほった・おさむ)
1957年、愛知県生まれ。防衛医科大学校卒業、医学博士。「木を見て森も見る医療の実践」を理念に掲げ、2011年に仙台市で医療法人モクシン堀田修クリニックを開業。特定非営利活動法人日本病巣疾患研究会理事長、IgA腎症・根治治療ネットワーク代表、日本腎臓学会功労会員。2001年、IgA腎症に対し早期の段階で「扁摘パルス」を行えば、根治治療が見込めることを米国医学雑誌に報告。現在は、同治療の普及活動と臨床データの集積を続けるほか、扁桃、上咽頭、歯などの病巣炎症が引き起こすさまざまな疾患の臨床と研究を行う。近年はEAT(上咽頭擦過療法)を使った「新型コロナ後遺症」への取り組みも注目を集めている。『つらい不調が続いたら慢性上咽頭炎を治しなさい』(あさ出版)。
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