『読むだけブランディング』
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【毎日書評】小手先の「ブランディング」では、うまくいかない本当の理由
[レビュアー] 印南敦史(作家、書評家)
起業してはみたものの、お客様が集まらず、なかなか売り上げが上がらない。採用もできず人が育たず、また人が辞めていく。他にも問題が次々と湧き出てくるので、成長が実感できない…。
そんな悩みを抱えている方も少なくないでしょうが、それは『読むだけブランディング』(佐藤幸憲、平岡広章 著、白夜書房)の著者のひとりである佐藤氏も同じだったようです。
起業した当初は順調だったものの成長はすぐに止まり、苦しい状態が続いたというのです。しかし、やがて「なにをやってもダメなら得意なことだけを究めてみよう」と思い立ち、得意だったマーケティングを1からやってみたのだとか。その結果、ブランディングの重要性を実感することになったのだといいます。
仮説を立てて、ブランディングに取り組んでいくと、またたく間に変化が生まれます。
次から次へと起きていた問題が少なくなり、振り回されることが減り、取り組むことが明確になり、生産性は上がり、仲間が増え、応援されるようになります。
その変化を見た友人の経営者に「やってみたい」と相談され、導入していくと同じように問題が解消され、本来のビジョンを目指す姿に変わっていきました。(「はじめに」より)
佐藤氏はそう実感するなかで共著者の平岡氏と出会うことに。氏はウェブサイトの制作を手掛ける「ラフスタイル」の代表であり、同社のブランディングをサポートする過程で本書の構想が生まれたのだそうです。
本書の提示するブランディングは商品の見せ方を変えるといった部分的なものではなく、企業全体を見直すものです。
したがって、経営的な視点で書かれているものもありますが、あくまでもブランディングという工程で必要な要素に絞って解説しています。したがって、本書を読むだけで、ブランディングの全体像がつかめるはずです。(「はじめに」より)
そんな本書のなかから、きょうは序章「ブランディングは農業に似ている」に焦点を当ててみたいと思います。
ブランディングとは、物語を紡ぎ、伝えていくこと
著者によればブランディングは物語を紡ぎ、伝えていく活動。企業や商品、サービスの見せ方を考えることではなく、「創業の歴史から始まり、価値ある未来へとつなぐ、企業の物語」を1から作る作業だということです。
そして、正しく伝えていくことで物語に共感し、応援してくれる人を増やしていくのです。(19ページより)
もちろん、応援者を増やすのはビジョンの実現のため。最初は小さな会社であったとしても、ブランディングとともに会社の規模が大きくなると、物語に厚みが増し、さらに魅力的になっていくことでしょう。すると、応援者が増えていくことになります。
つまりはそれを繰り返すことによって、ビジョンの実現を目指すわけです。(19ページより)
物語はさまざまなタッチポイントを通して伝わっていく
物語を伝えていく方法は、何も「うちはこんな物語を持っています!」とホームページに掲げたりすることではありません。
企業活動のさまざまなポイントに物語の断片を組み込むことで、感じ取ってもらうのです。(20ページより)
ちなみに本書では企業活動を、中心となる「プロダクト(商品やサービス)」を筆頭として、「セールス」「マーケティング」「リクルーティング」「マネジメント」の5つに分けています。それらすべての活動に“物語の断片”を組み込み、感じ取ってもらうわけです。
顧客と自社をつなぐ接点をタッチポイントといいますが、企業のロゴや商品パッケージ、広告、会社説明会などはその一部。
こうしたさまざまなタッチポイントを通じて、「この会社のここが好き」「お店の雰囲気が好き」「ここで働きたい」などと感じ取ってもらうことが大切なのです。(20ページより)
だから、部分最適をしてはいけない
意識しておくべきは、「物語は一貫性のあるもの」であるというスタンスをブレさせてはいけないということ。たとえば高級ブランドの宝飾やアパレルの店舗、広告、従業員の立ち振る舞いなどはすべて、商品の価格に見合っています。
「売り上げが悪いから、デザインを変えよう」といった小手先の行動は、物語を破綻させてしまうわけです。しかし、こうした「部分最適」ではいけないのです。
ブランディングは企業戦略そのものです。部分最適ではなく、全体最適で考えていく。その結果、物語に一貫性を持たせることができます。(21ページより)
そのため、時間がかかるのは当然の話。誰か、あるいはなにかに任せたとしても決してうまくいかないものなので、しっかり時間をかけるべきだということです。(21ページより)
ブランディングと農業の共通点
著者は本書において、ブランディングと農業には共通点が多いと指摘しています。つまり、どちらも一貫性を持ち、手間ひまかけて育てるものだということ。しかも一度きりではなく、継続して行うものなのだそうです。
農業は、土壌を育て、収穫量を決め、種を植え、根を育て、手入れをして、収穫をして、次の仕込みをします。どこかの工程が抜けたらいいものはできなくなりますし、途中で何かを変えたら一貫性がなくなります。(25ページより)
たとえばイチゴ用の土壌を整えて種を植えたのに、途中からキャベツのような育て方や手入れをしてしまったとしたらどうなるでしょう? 当然のことながら、それではイチゴは実らなくなります。
ブランディングも同じです。企業の基盤を整え、目標を決め、価値を組み込み、組織を育て、選択と集中をし、成果を分け合い、次の挑戦に向かうという工程があります。(25ページより)
つまりそこには農業のように、“適切な手順”があるということ。なんとなく目標を決めてみたり、部分をいじってみたりしてはいけないのです。そういう意味でこれは、ブランディングについて考えるうえで重要なポイントとなるようです。(25ページより)
ブランディングを俯瞰できる本書は、経営者やマネジャーのみならず、ブランディングを教養として学びたい人の役にも立てるだろうと著者は述べています。問題に振り回される状況から脱するためにも、読んでみる価値はあるかもしれません。
Source: 白夜書房