「ASMR」が心地良いのはナゼ? 炭酸水のシュワシュワ音で脳波を解析「心の治療に役立つ」期待も

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音を聞くだけで涼しげに感じるナゾ

 数年前からYouTubeなどの動画投稿サイトで若者を中心に流行している「ASMR(エーエスエムアール)」をご存知だろうか。聞くとゾクゾクするような感覚を覚えたり、心地良く感じたりする反応や感覚を指している。

「サクッサクッ」という食べ物の咀嚼(そしゃく)音が人気といったら首を傾げる方もいるだろうが、川のせせらぎや鳥のさえずる音の心地良さには万人が共感できるのではないか。

 ASMRは専門家らの研究も進んでおり、「心の健康に悩んでいる人の治療に役立つのでは」と語る研究者もいる。
 
 なぜ我々は音を聞くだけでゾクゾクしたり心地良いと感じたりするのだろうか。気持ちいい音とそうではない音とはどこが違うのだろうか。
 
 科学にとても詳しい「理科子先生」が、素朴なギモンにやさしく答えてくれる電子書籍『おしえて! 理科子先生(1)』(読売新聞アーカイブ選書)をもとに、ASMRの仕組みを探ってみよう。

※以下は同書の「(11)なにげない音に『ゾクゾク』」より引用しました。

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Q:聴くと体が「ゾクゾク」と感じる音を収録した動画が、インターネット上で流行しています。どんな音なのか、理科子先生、教えてください。(2022年2月3日掲載)

ASMRとは

「ASMR」のことね。日本語では「自律感覚絶頂反応」と呼ばれるわ。音などの刺激が引き金となって、体に心地よいゾクゾク感が出ることを指すの。十数年前から使われるようになった言葉で、一般の人が楽しむだけでなく、科学的な研究も進んでいるわよ。

 動画投稿サイト「ユーチューブ」では、タップダンスで床を鳴らす「カツカツ」という音や、本のページをめくる「ペラペラ」、パソコンのキーボードをたたく「パチパチ」などが人気で、再生回数が数千万回になることもあるわ。

 どの音がASMRを引き起こすかは個人差が大きいけど、共通点もある。

 中京大の近藤洋史教授(実験心理学)が実験で、30人に特徴を少しずつ変えた17分間の音をヘッドホンで聴かせたところ、「音色が暗い」「音量が大きくなる」「雑音が少ない」という特徴があるほど、よりゾクゾクしたと答える傾向にあったわ。

 特に、人形の両耳部分にマイクを埋め込んで録音する「バイノーラル」という方式は、ヘッドホンで聴いた時に立体感や臨場感が増して、より強いASMRにつながりやすいのよ。

耳元などが反応

 ASMRで反応する体の部位は、耳元や首筋、背筋、頭部が多いそうよ。近藤教授は、ASMRには体温や血圧などを自動で調節する「自律神経」のうち、体をリラックスさせる副交感神経が関係すると考えているわ。ASMRの動画を寝る前に見る人が多いそうだけどうなずけるわね。

 そもそも、なぜASMRが存在するのかは諸説あるわ。近藤教授は、「ASMRは霊長類が行う毛づくろいなどのスキンシップの代わりを果たしている可能性がある」と指摘しているわ。

 心地よい音と言えば、音楽を聴いた高揚感から鳥肌が立つこともあるわね。でも、こちらは体が活発に動くときに働く交感神経が関わっているとみられているわ。一方、「黒板を爪で引っかく」「発泡スチロールがこすれる」など不快な音もあるけど、これらの音の特徴や不快な理由は明らかではなく、過去の経験や文化の差などが影響している可能性があるそうよ。

心の健康に役立つと期待

 ASMRを感じる時に脳はどんな働きをしているのかしら。自治医科大の石下洋平講師(脳神経外科)は、脳の病気を治療するため脳に数十個の電極を装着した患者に協力してもらい、炭酸水が「シュワシュワ」とはじける動画を見せた時の脳波を計測しているわよ。

 これまでの解析で、顔に触れた時の感覚が伝わる部位の脳波が関連していたそうよ。ほかにも、聴覚や手足の感覚などに関係する場所とのつながりも示されているの。石下講師は「ASMRの仕組みが分かれば、心の健康に悩んでいる人の治療に役立つのでは」と期待しているわ。

 ストレス軽減や心の健康維持のために、積極的にASMRを使う人が今後増えるかもしれないわね。

Book Bang編集部
2024年7月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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