「カタツムリ」の9割が右巻きの謎…天敵ヘビの影響で左巻きに進化も ヒトの臓器反転のヒントに?

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人でも臓器反転

 ところで人体は左右対称だけど、内臓は非対称で、心臓が左側、肝臓は右側にあるわね。でも、ごくまれに内臓の位置が左右逆になっている「内臓逆位」の人がいる。殻の巻き方向の研究が重要なのは、内臓逆位が体の外側からわかる動物は巻き貝だけだからなのよ。

 内臓逆位の遺伝子を知りたいと思った英ノッティンガム大のアンガス・デビソン准教授は、淡水にすむ「モノアラガイ」という巻き貝を分析したの。そして、「フォルミン」というたんぱく質をつくる遺伝子が、この貝の巻き方向、すなわち内臓逆位を決めることを突き止めたのよ。

 フォルミンは、細胞の形を維持したり、分裂させたりする分子の働きを調節している。この遺伝子が、カエルの内臓の配置も左右することを実験で示したデビソンさんは「人間を含む多くの脊椎動物の内臓配置に影響している可能性がある」と話しているわ。

 ただ、カタツムリの左巻き・右巻きを決めているのはこの遺伝子ではないの。カタツムリの巻き方向を左右する遺伝子の探索が続いているわ。

「サウザー」命名の理由 1万人に1人

 スペイン出身の人気歌手エンリケ・イグレシアスさんは、自分が内臓逆位であることを明らかにしている。イグレシアスさんのように、左右の臓器が完全に反転するケースは、約1万人に1人の割合で生じるとされる。

 拳法の強者たちの闘いを描き、1980年代に人気を博した漫画「北斗の拳」に登場する聖帝サウザーは、主人公のケンシロウを苦もなくたたきのめした。サウザーも内臓逆位という設定だった。ケンシロウの必殺技は、体の外からは見えない相手の「秘孔」という急所を攻撃することだったが、サウザーの体は秘孔も左右反転していたため、効果がなかったのだ。

 2000年代にショウジョウバエの内臓逆位を起こす遺伝子を発見した大阪大の松野健治教授は、北斗の拳にちなみ、この遺伝子を「サウザー」と命名した。

読売新聞 芝田裕一

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Book Bang編集部
2024年6月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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