「不意に涙が出そうに…」高嶋政伸が明かした“13歳の娘を暴行する役”への葛藤 インティマシーコーディネーターに支えられたNHK『大奥』の裏側

エッセイ・コラム

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■いつか胸を張って息子たちに…

 撮影は、必要最低限の人員だけを現場に入れ、スタジオの中と外にあるモニターも、許可されているもの以外は全て消し、ワンカットずつ慎重に撮っていきました。撮影時間は予定を大幅に上回り、約4時間かかりましたが、娘役の俳優さんの好演も光り、最終カットのOKが出ると彼女はとても満足そうな笑顔を見せました。それはプロとして役を演じ切ったゆえの笑顔だと思いました。もちろん、そうであってほしい。

 何もかもがうまくいったか、それは分かりません。しかし、楽しそうに笑う娘役の俳優さんを見ながら、世界的に見ても前代未聞のシーンの撮影に参加し、得難い経験をしたことで、俳優という「心」を扱う職業の面白さを、いつか胸を張って息子たちに話せるだろうと思えます。
 
 現在、インティマシーコーディネーターのライセンスは米国でのみ取得可能で、取得者は日本にまだ2人しかいらっしゃいません。この日の帰り際に浅田さんは、「もっともっと日本でこの職業が認知され、正しく機能するように頑張ります」とおっしゃり、実際にこの3月から日本でのトレーニングを始めるそうです。その言葉は本当に尊く、力強く、この方もたくさんの困難と戦っているんだなと感じ、同志として嬉しくなりました。

 ホッとしたらお腹が急にぐうぐう鳴ってきました。あぁ、そうだ、まだお昼ごはんを食べてなかった。現場マネージャーの武富くん、そして、チーフマネージャーとして現場を見守ってくれた秋元さん、本当にありがとう。

 さあ、何を食べて帰ろうか。

***

※本稿は新潮社の読書情報誌「波」(2024年4月号)で不定期連載されている高嶋政伸さんのエッセイ「おつむの良い子は長居しない」(第12回)をもとに再編集しました。

高嶋政伸(俳優)
1966年東京都生まれ。1988年 連続テレビ小説『純ちゃんの応援歌』(NHK)にてデビュー。1990年放送開始のドラマ『HOTEL』(TBS)や2002年放送の『こちら本池上署』(TBS)で主演を務め、人気シリーズとなる。またドラマ『DOCTORS最強の名医』(テレビ朝日)での主人公と敵対する外科医・森山卓や大河ドラマ『真田丸』で演じた北条氏政役は話題を呼んだ。映画にも多数出演するほか、朗読会「Reading Session」を主宰するなど多方面で活躍中。

新潮社 波
2024年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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