少年時代、吃音に悩んだ小倉智昭さんは、「しゃべる仕事に就きたい」という思いを実現して、アナウンサーになる。テレビ東京の局アナからスタートしたキャリアは、不遇なフリー時代を経て、「世界まるごとHOWマッチ」でブレイク。その後、「情報プレゼンター とくダネ!」などでの活躍はご存知の通りである。
興味深いのは、吃音の経験がのちにいい形で仕事に「活きた」という点だ。年の離れた友人、古市憲寿さんを聞き手にした著書『本音』(新潮新書)では、「とくダネ!」の名物コーナーだったオープニングトークと関連づけて、秘話が明かされている。(以下、同書より)
【前後編記事の後編:前編は「『吃音が悔しくて悔しくて』 小倉智昭さんが子供の時につけられた『ひどいあだ名』」】
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古市:オープニングでは常に5分とか10分よどみなくしゃべっていたじゃないですか。あれはどのくらいの事前準備があったんですか。
小倉:実は事前の原稿なんかは用意していません。しないほうがいいとすら思っています。
子供の頃、吃音を治す過程で、作文を書くときに必要な起承転結が、しゃべりにも必要だっていうのに気がついたんです。
しゃべることは作文だというふうに思ってたから、文章構成をしてしゃべるみたいなところがあります。僕のスポーツ中継って行き当たりばったりしゃべってはいますけど、一方で、全部作文みたいな感じでしゃべっているんですよ。
でも、予定稿ではあんまりしゃべりたくないので、その場で見たものを一応、頭の中で文章化したうえで口に出すみたいな感じで。
古市:それを事前に文字に起こすわけではないんですね。
小倉:頭の中で起承転結をイメージしておくだけ。新人のアナウンサーと一緒に仕事をすると、彼らは原稿を用意したうえで、さらに赤字を加えたりとか、しゃべることを書きだしたりとかって準備してるじゃない?
「そういうのは、やめたほうがいいよ」っていつも言ってたけどね。「なるべく書かないほうがいいよ」って。
古市:それってトレーニングでできるようになったんですか。個人のセンスに負うところが大きいのかなって感じもします。
小倉::やっぱり吃音があったから、話す言葉を頭の中で事前に決めておくほうが話しやすかったっていうのはある。そのおかげで脳内で素早く整理して文章化する癖ができたというか。
吃音だと、とっさに言葉は出てこないんですよ。何か言い返そうとしても、必ずつかえてしまったりとか、口ごもってしまったりする。
自分は何て言い返すべきなのかといったことは常に頭の中で考えていた。そうすれば言い返しやすいじゃないですか。その積み重ねみたいなところがあって。だからスポーツ実況、競馬の中継でも僕は瞬間的に作文しながらしゃべってたんです。
古市:子供の頃から吃音の影響で、言葉をいったん塞き止めてから脳内で文章化していたことが後になって役立ったということでしょうか。
小倉:そうかもわからない。まあ加えて本を読むのが好きだったから、それで養われたのか。意識して身につけたスキルではないので、自分自身ではわからないんですね。
古市:面白いですね。普通はきちんと準備して原稿も用意するのが正しいと言われそうなのに、むしろ小倉さんはそうではない、と。
小倉:書いちゃうと、それに引きずられるんです。
加えてキャスターの場合は、目線の問題があります。テレビを見ている人は、ものすごくキャスターの目線が気になるものなんだよね。原稿やカンペに目をやると、そこに視聴者も気をとられてしまう。
まあ僕だって目が落ち着いてきたのって、「とくダネ!」やって何年かしてからですよ。それまでは落ち着きのない人で、一点をじっと見てられないんだよね。カメラのレンズの見方というのは難しいもんで、レンズを凝視するとものすごく顔がきつくなるんですよ。
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だから基本はレンズの下を漠然とぼわっと見るぐらいの感じじゃないと駄目。
いま生きているカメラにはタリー(ライト)が付くでしょ。そのカメラを見ながら喋る必要があるので、当然、タリーを意識しながら僕ら見ていくわけじゃないですか。だからといって急にタリーのほうを向くと、もう目線が飛んでしまうのが分かるんだよね。これも視聴者は落ち着かない。
だから舐め回すような感じで目線を動かして、カメラを見るようにしないと駄目。
カンペが出てるときも、そっちばっかり見てると絶対、目の動きで分かってしまう。
実はそういうことに慣れてきたのは50歳過ぎてからだったよね。
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