2022年最も売れた文芸書は『同志少女よ、敵を撃て』 時代を代表するベストセラーを今読むべき理由とは[2022年ベストセラー解説]
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- 同志少女よ、敵を撃て
- 価格:2,090円(税込)
昨年12月1日に発表されたトーハン調べの2022年 年間ベストセラー。単行本 文芸書部門第1位に輝いたのは逢坂冬馬さんの『同志少女よ、敵を撃て』。同作は第二次大戦下のソ連を舞台に、故郷の村をドイツ軍に焼かれ女性でありながら狙撃兵となった少女セラフィマを主人公に、戦争の悲惨さと理不尽さを描いた戦争冒険小説。
同作は逢坂冬馬さんのデビュー作。2021年8月に第11回アガサ・クリスティー賞で選考委員全員が満点をつけ受賞。11月に単行本として刊行されると、12月には第166回直木賞にノミネート。惜しくも受賞は逃したものの、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻を受け、物語の背景に今回の侵攻とも関係が深い独ソ戦があることもあり注目を浴びた。4月には「2022年本屋大賞」で大賞を受賞。2022年末のミステリランキング『このミステリーがすごい!2023年版』(宝島社)でも国内編7位にランクインし、2022年を代表するベストセラーとなった。
コラムニストの香山二三郎さんは2021年12月の書評で《今年の日本ミステリー界は新人の当たり年だったが、その掉尾を飾るに相応しい傑作》《全選考委員が満点をつけたのも当然の出来栄え》と評価している。
文芸評論家の末國善己さんは《最前線でドイツ兵を殺し続けたセラフィマが、真に撃つべき敵がドイツ軍の狙撃兵でも、イリーナ(※敵役 編集部注)でもないことに気付く終盤は、いつの時代も戦争になると必ず起こる民衆の抑圧や、戦争そのものが持つ欺瞞、不条理を読者に突き付けており、強く印象に残った。》と述べ《将来が期待できる新人》と評している。またスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチのノンフィクション『戦争は女の顔をしていない』(岩波書店)と併せて読むことで理解が深まると勧めている。
書評家の大矢博子さんはウクライナ侵攻のニュースに触れたとき、物語に登場するウクライナ出身の狙撃兵の少女オリガを思い出したという。《オリガは言う。「ウクライナがソビエト・ロシアにどんな扱いをされてきたか、知ってる?」「ソ連にとってのウクライナってなに? 略奪すべき農地よ」「ウクライナでは、みんな最初はドイツ人を歓迎していた。これで、ソ連からウクライナは解放されるんだって」。》《しかしオリガはソ連兵のひとりとして戦うのだ。それはなぜか。彼女に何があり、彼女が何を選択し、そしてどうなったか。どうか本編で確かめてほしい。》と勧め、そのように思いを馳せることが出来ることこそ、《「ここではない場所・今ではない時代」を舞台にした文学の力なのである》と同作を今読むべき意義を解説している。
その他の文芸書年間ベストセラーの傾向としては、1月に発表された第166回直木賞の受賞作、米澤穂信さん『黒牢城』と、今村翔吾さんの『塞王の楯』、ネットで話題となった『六人の嘘つきな大学生』や『変な家』、東野圭吾さんのミステリシリーズ最新作『マスカレード・ゲーム』などエンタメ作品が並ぶ中、5位の『おいしいごはんが食べられますように』は第167回芥川賞の受賞作で純文学作品。
ある職場の人間関係を食を通して描いた作品で、穏やかなタイトルと裏腹に不穏な空気に満ちた人間関係を描いている。同作について作家の柴崎友香さんは《平凡に見える表面の下で不穏さが増す彼らの今後に想像を巡らせてしまいつつ、自分の中で波立った感覚が本を閉じた後も残っている》と読後感を綴り、翻訳家でエッセイストの鴻巣友季子さんは《恐ろしい小説だ。おそろしく巧い》と絶賛している。
■トーハン 2022年 年間ベストセラー 単行本 文芸書部門
1位『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬[著](早川書房)
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- マスカレード・ゲーム
- 価格:1,815円(税込)
2位『マスカレード・ゲーム』東野圭吾[著](集英社)
3位『その本は』又吉直樹[著]ヨシタケシンスケ[著](ポプラ社)
4位『黒牢城』米澤穂信[著](KADOKAWA)
5位『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子[著](講談社)
6位『塞王の楯』今村翔吾[著](集英社)
7位『オーバーロード15 半森妖精の神人 上』『オーバーロード16 半森妖精の神人 下』丸山くがね[著](KADOKAWA)
8位『変な家』雨穴[著](飛鳥新社)
9位『転生したらスライムだった件 19・20』伏瀬[著](マイクロマガジン社)
10位『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成[著](KADOKAWA)
〈集計期間:2021年11月22日~2022年11月21日〉
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