受験を数か月後に事件が……
僕は、まず彼女と仲よくなるところから始めた。
彼女は、父親の影響かバンドが好きだった。僕もハードコア・パンクが好きなので、意外に話が合った。「マキシマム ザ ホルモンのCD持ってる? 今度貸して」と言われて持って行ったり、「フジロック行ったことある? どんなんやった?」と訊かれて話したり、「今度HEY-SMITHのライブ行くねん。めっちゃいいやろ」と自慢されたり。最終的には、「今日めっちゃ足くさいねん。ほら」と足のニオイを嗅がされそうになるくらい仲よくなった。
彼女は、実はめちゃくちゃ頭のいい子だった。本人は小学生の勉強からやり直さないと何もわからないと言っていたが、全然そんなことはなかった。
僕は、いったん受験のことは忘れて、いま学校でやっている授業の復習からやろうと提案した。結果はすぐに出づらいだろうけど、まず1学期の中間テストと期末テストに、いままでとは違う感覚で臨んでほしいと思った。「いままでと違う感覚」というのは、数学と理科はいつもどおりのことをやればいいんだ、別にテストだからといって、特別な勉強をする必要ないんだということを肌で感じてほしかった。
数学と理科は、一夜漬けの勉強はできない。しかし、裏を返せば、ふだんからやっていれば数学と理科は試験直前に時間をさいて勉強することなんてほとんどない。たとえば、試験範囲で使われる公式をチェックしたり、出題される問題のパターンを確認するだけでテスト勉強は終わりだ。これが、数学と理科のいいところだ。いままでテスト前に焦って、むやみやたらに勉強していた時間を、ほかの暗記科目などに使うことができれば、ほかの点数もきっと自然とあがるはずだ。
1学期の中間テストはまだまだだったが、期末テストにはもう結果が少し出てきていた。数学と理科の点数も、平均点に近くなった。夏休みも、彼女は文句の一つも言わずに僕の言うとおりに勉強してくれた。その結果、2学期のテストでは数学も70点以上取ることができた。あれだけ苦手だった数学が、いまは確実に点数が取れる教科にまでなった。
奥さんは「先生のおかげです」と言った。僕は、「いや、ふだん先生なんて言わへんやん。急に恥ずかしいわ」とツッコんだ。彼女も、両親も笑顔だった。このままいけば、志望校合格も夢じゃない。しかし、受験を数か月後に控えた冬に事件が起きた。
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