矢部太郎も大ファン 芸術家・近藤聡乃のエッセイ漫画にほっこり 

イベントレポート

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お互いがお互いの漫画のファンで、まさかのコラボが実現!お互いがお互いの漫画のファンで、まさかのコラボが実現!

『ニューヨークで考え中』が人気の、アーティストで漫画家の近藤聡乃さんと、『大家さんと僕』が話題の、お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんのトークイベントが4月21日(土)神楽坂のla kaguで行われた。お互いがお互いの漫画のファンで、まさかのコラボが実現! ふたりとも専業漫画家ではないという共通点はあるものの、この日が初対面。芸人なのに「人前で話すことが苦手」な矢部さんは、尊敬する近藤さんを前にいつにも増して緊張気味だったが、近藤さんの穏やかなトークに助けられ、エッセイ漫画を描く上での楽しみや苦労、相手の漫画の中でのお気に入りシーンの紹介、描き下ろし漫画を本邦初公開など、充実した内容と楽しいトークに満員の会場は大いに沸いた。

■海を越えてつながる前から

 ニューヨークに暮らし始めてすでに今年で10年の近藤さん。『大家さんと僕』は矢部さんの担当編集者に献本されてニューヨークで読んだという。「本を送ってもらっても、褒めるところを探すのに苦労することがあるけれど、今回はちゃんと浮かんでくる言葉があって、長文の感想メールを担当者に送りました」と近藤さんが言えば、「僕は純粋に近藤さんのファンで、(今年の1~2月に)渋谷で開催された原画展にも行ったほど。すごく嬉しいです」と答える矢部さん。「カラテカのライブにはこんなに人が集まりませんよねーってマネージャーも言ってました(笑)」「僕にファンは存在しなくて、みんな大家さんのファン」と自虐トークを繰り広げると、「矢部さんこれからモテると思いますよ、絶対モテモテ」と近藤さんがフォロー。のっけから会場は和やかなムードに包まれる。

 矢部さんが初めて近藤さんの作品を知ったのは雑誌「コミックH」(ロッキング・オン社)に掲載された「虫時計」だったという。「引き出しを開けたら気持ち悪いのがいっぱい出てきて……印象的というかトラウマ(笑)。『コミックH』のなかでも近藤さんのは『ガロ』っぽくてちょっと異質でした」

「虫時計」より「虫時計」より

 また20年前、近藤さんが18歳(高校3年生)のときに初めて描いた漫画「女子校生活のしおり」も披露された。扉絵に描かれた出席番号「3年5組11番」は当時の実際そのままだという。絵柄のタッチ、スクリーントーンを使わない手法など現在に通じる作品に、近藤さんは「懐かしい」を連発。矢部さんは登壇しているのを忘れるほど見惚れていた。

 一方近藤さんが矢部さんを知ったのは、同じく20年くらい前の深夜番組。「歌丸痩せ我慢」と相方の入江さんが言うと矢部さんが震える、という情景をはっきりと覚えているそう。矢部さん曰く「『ブレイクもの!』というフジテレビの深夜のネタ番組です。田代まさしさんが司会をやられていて、5週勝ち抜くと4分のネタが出来る仕組みでカラテカは一応勝ち抜いて……」と照れて小声に。その番組の話をされたのは、能町みね子さんに続いて2人目だそうだから、近藤さんの記憶力の良さには目を見張るものがある。

■『ニューヨークで考え中』のここが好き!

 下書きをしてGペンで描く――昔ながらの手法で漫画を描いているという近藤さん。スクリーントーンも使わず、一人もくもくと作業するため、ほとんど家から出ない日が多いそう。見返さないからメモは取らず、〆切に間に合うように「家の机の前で考え中」の末、ネームが生まれていく。そんな『ニューヨークで考え中』のなかで、矢部さんが特に好きなシーンが紹介された。

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「この回から、スッとお話が僕の中に入ってきました。テンポがすごく良くて」と矢部さん。普通にニューヨークを歩いていて感じたり起こったりした出来事に、「ニューヨークってこんな感じなんだなぁ」としみじみ思ったという。「見ず知らずの他人から持ち物を褒められることがあって、私も気分が乗ってて素敵な人を見つけたときは『ナイスですね!』と褒めるようにしています」と近藤さんは日本ではあり得なかった行動に出ているそう。電車で隣同士になった人が普通に話をする光景もよく見るという。

 そんなニューヨークで、近藤さんは少し前にご結婚された。アメリカ人のパートナーは目下日本語勉強中で、そんな彼の微笑ましいエピソード回も披露された。

かわいい日本語かわいい日本語

「『ふ』という文字が可愛いというのはすごく共感できました。僕には『ふ』は踊っているようにも見えて。もともとはどんな由来があるのでしょうね」と矢部さんが問うと、「確か鳥の形からきていると聞いたことがあります」と近藤さん。その後日本語の漢字に話が及ぶと、「『兵庫』ってタコみたいな形で可愛くないですか?」(矢部さん)、「可愛いのは富山ですよ、猫の形。富山県民がそう言っていました」(近藤さん)、「『群馬』は鳥っぽい」(矢部さん)と互いに持論を披露し、会場は笑いに包まれた。

■『大家さんと僕』のここが好き!

「明日はこの現場に行ってくださいってマネージャーから前日にメールが来るので、日雇いみたいな感じ」と自分の仕事について説明する矢部さん。お笑いだけでなく最近は俳優としても活躍している。

 そんな矢部さんも、漫画のネタをメモすることはなく、家で考えて描いているという。『大家さんと僕』での近藤さんのお気に入りシーンが紹介された。

サザエの回サザエの回

 かつての夫が大家さんのことを描いたという絵を見せられると、そこにはサザエが描かれていた……」という回では、「結婚相手にサザエに例えられるのって、あんまり良くないこと。貝のように心を閉ざしていたのではないか、あまり幸せではなかったんじゃないかって想像してしまいました」と描いた本人も気がついていなかった近藤さんの鋭い分析に驚く矢部さん。「大家さんみたいな素敵な人でも、人生うまくいかない時があるということにはホッとしました」と、同じ女性ならではの視点も。

うどんとホタルうどんとホタル

 続いては、大家さんと矢部さんがふたり、風の中手を繋いで歩く場面をチョイス。「85歳になる義理の母が最近ふらつくので手を引いて歩くのですが、自分の親にもそんなに親切にしていないのに……と、良いことをしているのに罪悪感を抱いてしまうんです」と複雑な気持ちを吐露した近藤さん。矢部さんも、大家さんとはよく会ってお茶しているのになかなか実家には帰らなかったりしていることを、ちょっと気にしているという。「親孝行って自分の親にするのが一番難しい」(近藤さん)、「できないからこそ尊いですよね……」(矢部さん)と互いに現状を慰め合っていた。

■本邦初公開の描き下ろし漫画

 次に、お互いの漫画を読んだ感想を描いた漫画が初公開された。

近藤さんの感想漫画近藤さんの感想漫画

 小説や漫画を読むと、ちょっとしたことが気になって、この作者とはは気が合わなそうだな、と思うことがあるけれど、『大家さんと僕』にはそれをまったく感じなかったという。「エッセイ漫画は事実を書いているから、余計に人柄が出ると思うんですよ。そういう意味でも矢部さんはモテモテになっているだろうと思っていたのに(笑)」と再び矢部さんのモテ話になり会場からは笑いが。

 感想を漫画にしてもらったこと自体初めて、と興奮しながらも、「僕のは感想じゃない……やっべー」と焦りまくる矢部さん。

矢部さんの感想漫画矢部さんの感想漫画

 矢部さんはかつて、ニューヨークにある男性だけのバレエ団、トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団に入団したことがあって、『ニューヨークで考え中』を読むとその時のことを思い出すという。

 1週間の滞在中ずっと練習漬けだったけれど、1日だけ一人で外出したときのエピソードで、「マクドナルドで『coffee』は難しいから『coke』なら『カ行』だけだし大丈夫だと思って頼んだら……出てきたのが『パンケーキ』だったんです」と、矢部さんらしいトホホなオチに会場からは爆笑が起こった。

■50年後も、ニューヨークと新宿で考え中?

 連載丸5年となる『ニューヨークで考え中』だが、近藤さんは担当編集者と「互いの健康が続く限りは続けよう」と話しているという。「大家さんくらいの年齢(88歳)までは描き続けたい」とファンには嬉しい宣言(?)も! しかし、「そのためにはキャラクターの見た目も一緒に年をとっていかないといけないのだけれど、それが結構難しくて悩んでいる」ともいう。

 一方矢部さんは、「大家さんのことを描いた責任が僕にはあると思っていて、大家さんのためにももう一冊描いてみようかな」といまは考えているそう。「50年後、大家さんと同じ年齢になったとき、大家さんのことを思い出しながら描くというのも読んでみたい」と近藤さんからはリクエストまで飛び出した。

 最後に、「近藤さんに読んでもらうために頑張って描き続けます」と矢部さんが言えば、「私も矢部さんのために描きます」と応えた近藤さん。

 初対面とは思えないほど息ピッタリなふたりのトークイベントは大盛況のうちに終了した。

Book Bang編集部
2018年5月7日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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